- 2025.12.02
- 膵臓がん
膵臓がんの肝臓転移 ステージ4と余命に向き合う最新治療と生存率
膵臓がんと診断され、さらに肝臓への転移が認められた場合、多くの方が計り知れない不安に直面されていることと存じます。遠隔臓器に転移したがんの状態は、一般的にステージ4と分類され、治療の選択において難しい判断を求められることがあります。
しかし、医療の世界は日進月歩で進化しており、現在利用できる治療の選択肢やアプローチは以前と比べ大きく変化しています。
多くの方が、ご自身の平均余命や生存率について知りたいと思われていることでしょう。「1年」や「半年」といったヶ月単位の数字や統計は治療方針や今後の生活を考える上で大切な判断材料です。
ですが、約何ヶ月という数字はあくまで大勢の一般的な割合を示すものであり、一人ひとりの経過はさまざまだということです。統計はご自身の未来を確実に決定づけるというものではありません。
手術が難しくなった状況でも、医療の現場では引き続き最善の治療が模索されています。現在推奨されている標準的な診療、つまり化学療法(抗がん剤治療)や放射線治療は、がんの進行を抑えること、そして何よりも患者さんの生活の質(QOL)を維持するという重要な目的を持って行われています。
このコラムでは、まず膵がんがなぜ肝臓に転移しやすいのかという事実から、現在発見された時点でどのように診断が行われるのか、そしてステージ別の生存率の考え方を、信頼できる情報に基づいてやさしく解説します。
この記事を読むことで、漠然とした不安が確かな知識へと変わり、皆様が最善の道を見つけるための一歩となることを心から願っています。
1.膵臓がん肝臓転移の現状
膵臓がんは、進行が早く治療が難しい病気であり、肝臓への転移が非常によく見られます。肝臓転移が起こった場合、治療の選択肢は限られ、生存率も低くなります。具体的な生存率は、膵臓がんのステージや患者の状態により異なりますが、肝臓転移が生じた膵臓がん患者の5年生存率は10%未満とされています。
現在、肝臓転移に対する主な治療法は化学療法です。手術による腫瘍切除は、転移が局所的であり、患者の全身状態が良好である場合に限られます。また、放射線療法や免疫療法も一部の患者に対して行われていますが、効果は限定的です。
肝臓転移の早期発見と治療が患者の生存期間を延ばすために重要です。しかし、膵臓がんは他のがんに比べて症状が出にくく、進行が速いため、早期発見が困難な病気です。今後の研究によって、より効果的な治療法の開発や早期診断が期待されています。
膵臓がんの進行メカニズム
膵臓(すいぞう)がんは、その特有の性質から、他のがん疾患に比べ進行が早く、早期発見が難しく、広がりやすい病気として知られています。膵がんの細胞は、膵臓内で増殖するうちに周囲の組織に侵入し、リンパ管や血管に乗り込むことで、遠隔の臓器へと運ばれていきます。この遠隔転移の中でも、肝臓への転移は非常に高い割合で認められます。
なぜ肝臓への転移が多いのでしょうか。これは、膵臓から流れ出た血液が、体の構造(血流関連)上、最初に大量に流れ込む部位が肝臓であることに起因します。そのため、血流にのって運ばれてきたがん細胞が肝臓に定着しやすいという事実があります。
この肝臓転移が認められた時点で、膵臓がんは遠隔転移期、すなわちステージ4に分類されます。この分類は、治療の目的や方針を決定する上で重要な意味を持ちます。肝臓転移は、がんが全身の体に広がりつつある状態を示すため、治療が難しくなる重要な予後不良因子となります。
生存率と平均余命の考え方
ステージ4の膵臓がん、特に肝臓転移がある場合、ご本人やご家族にとって最も知りたい情報の一つが「生存率」や「平均余命」でしょう。
過去の統計データに基づくと、肝臓転移が生じた膵臓がん患者さんの5年生存率は少なく、一般的に一桁の割合とされています。また、平均余命や「1年」、「半年」といったヶ月単位の余命を示す数字も関連情報として存在します。
これらの数字は、医療統計という大きな枠組みの中で、特定の期間や特定の治療を受けてきた人々の経過を平均化した内容です。これらの数字が示すのは、あくまで一般的な傾向であり、個々の患者さんの実際の経過は、がんの種類、進行度、体力、そして受ける診療の種類によってさまざまに変わるという事実を理解しておくことが大切です。
統計上の数字は約束された未来ではありません。最新の診療や治療薬の進化、そして患者さん自身の生活の工夫や強い気持ちが、統計を上回る結果をもたらす例は少なくありません。数字に一喜一憂するのではなく、ご自身の状態を客観的に把握し、主治医と連携して最善の治療法を探すための参考情報として利用してください。
早期発見の重要性
膵臓がんは、初期には症状が出にくいため発見が遅れがちですが、転移を予防し、あるいは転移が認められた後の時間を延ばすためには、早期発見と早期の標準治療が極めて重要になります。
進行すると現れる主な症状には、腹痛(特に上腹部やみぞおち)、背中の痛み、体が黄色くなる黄疸、体重減少などが認められます。これらの症状は、膵臓がん以外の病気でも発症しますが、長く続く場合や気になる症状がある人は、速やかに病院を受診してください。
診断の流れとしては、まず問診や身体検査から始まり、その後、超音波検査、CTやMRIといった画像検査、そして血液検査(がんマーカーなど)を実施します。特に肝臓転移が疑われる場合は、転移部位の正確な分類と広がりを確認するための詳細な検査が行われます。この診断結果に基づき、患者さんの体の状態やがんの広がりに応じた最適な診療方針が決定されます。
また、ステージ4の膵がんでは、腹痛などの症状を緩和するための対応も診療の重要な目的です。例えば、がんによる痛みに対しては鎮痛剤の使用、黄疸に対しては胆管にステント(筒状の補助具)を挿入する処置などが実施され、患者さんの生活の質を維持するための対応が並行して行われます。
2.膵臓がん肝臓転移の治療
膵臓がん肝臓転移の最先端治療戦略は、集学的治療を基本とし、分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬などの新規治療薬の開発が進んでいます。これらの治療は、効果が期待できる患者を選択し、可能な限り個別化されたアプローチを行うことが大切です。
最先端治療の効果は、患者さんの腫瘍の遺伝子情報や免疫状態によって左右され、効果が高い患者さんもいれば、効果が得られない患者さんもいます。そのため、適切な治療選択とフォローアップが重要です。
治療の基盤は薬物療法
ステージ4の膵臓がん、特に肝臓転移がある場合の治療は、単一の治療法に頼るのではなく複数の診療を組み合わせて実施する「集学的治療」が基本となります。これは、それぞれの治療法の限界を補い合いがんの進行を抑え、患者さんの経過を良好に導くという最大の目的を目指す対応です。
現在、肝臓転移に対する主要な標準治療は化学療法(抗がん剤治療)です。
この分野は近年目覚ましい進化を遂げており、新しい種類の抗がん剤が開発され、それらを併用する治療戦略が実施されることで以前よりも効果が高まり、患者さんの平均余命や経過を延長させる例が少なくありません。
特に注目されているのは、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい治療法の使用です。
これらの薬は、がん細胞特有の性質や、体の免疫の仕組みを利用して作用します。
・分子標的薬
がん細胞の増殖や生存に必要な特定の分子を狙い撃ちすることで、正常な細胞へのダメージを抑えつつ効果を発揮する薬です。
・免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞が免疫の働きにブレーキをかけるのを解除し、患者さん自身の免疫細胞ががんを攻撃できるように補助する薬です。
これらの新しい薬の効果は、患者さん個々のがんの遺伝子情報や免疫の状態によってさまざまに異なります。
そのため、治療前に関連する検査を行い効果が期待できる人を慎重に選ぶことが、極めて重要になります。
外科手術と放射線治療
ステージ4で肝臓転移がある場合、一般的に外科手術によるがんの切除は難しくなります。
しかし、転移が一つまたは少なく部位が限られていて、かつ患者さんの体の状態(体力)が非常に良好な場合に限り切除が検討されることも実際にはあります。
これは、治癒(完治)というよりは、がんの量を減らし、化学療法の効果をより高める目的で行われることが多いです。
放射線治療も進化しています。特に、ピンポイントでがん病巣に照射する技術が注目されており、周辺の正常な細胞や臓器へのダメージを低下させながら、がん病巣に集中的に効果をもたらすことが可能になりつつあります。
この治療法は、主に痛みの緩和や、特定の部位のがんを縮小させる目的で、補助的に使用される例が少なくありません。複数の治療法を併用することにより、効果の向上が期待できることも、この診療の大きな特徴です。
個別化診療の確立
現在、膵臓がん肝臓転移の診療はさらに効果が高く患者さんの体に負担の少ない治療を探すべく、世界中で活発な研究が実施されています。
今後の展望としては、膵臓がんの肝臓転移治療において、患者さん一人ひとりの体の状態やがんの遺伝子、免疫の特徴を詳細に把握し、その人にとって最も効果の高い治療薬や治療法を選択できる「個別化診療」の確立が期待されています。
そのためにも、専門の医療院や関連する診療科との連携を取りながら最新の研究動向にも注目していくことが、最善の対応につながると言えます。
3.患者のサポートと生活
膵臓がんは進行が早く、肝臓への転移が多く見られる病気です。治療方法は手術、化学療法、放射線療法などがありますが、転移がある場合、手術が困難となります。そのため、緩和治療が主となります。
闘病生活では、患者は肝臓への転移による症状に苦しむ場合があります。そのため、転移した肝臓の状態を調べるために定期的に検査が必要です。また、膵臓がんの症状に対しても、消化を助ける薬や痛みを緩和する薬が処方されることがあります。
治療を受ける病院や医療スタッフ、家族とのサポートが重要であり、患者の心のケアも大切です。また、患者自身が情報を収集し、治療の選択肢や今後の生活について考えることが求められます。
QOLの維持に向けた取り組み
膵臓がんの肝臓転移により、腹痛や背中の痛み、黄疸、消化器系の不調、体重減少などの症状が現れることがあります。これらの症状を適切に緩和し、患者さんの生活の質(QOL)を維持することが、ステージ4での診療の重要な目的です。
まず、痛みへの対応は極めて重要です。痛みを我慢することは、体力と時間を無駄にしてしまうため、なるべく避けてください。
痛みに対しては、鎮痛剤を効果的に使用する緩和ケアが中心的な対応となります。痛みの種類や部位に応じて、飲む薬だけでなく、貼る薬などさまざまな種類の鎮痛剤が利用されます。
痛みが難しくなる前に、医療スタッフに気軽に相談し、標準的な対応を受けることが極めて重要です。
次に、体力維持のための栄養管理は欠かせません。
膵がんや肝臓転移の影響で食欲が低下したり、栄養の吸収が難しくなったりすることが多くあります。そのため、体力を維持し化学療法などの診療を継続していくためにも、適切な栄養管理が必要です。
具体的な対応として、消化を補助する薬の使用(膵管からの消化酵素の補助)や、管理栄養士や医師と連携した高カロリー・高タンパク質の食事の工夫が推奨されます。また、必要に応じて点滴や経腸栄養などの補助的な対応も実施されます。
これらを実施し、体を整えることで、実際の経過が改善する例も少なくありません。
家族や医療従事者との関わり
闘病生活の不安を乗り越え、最善の経過を探すためには、患者、家族、そして医療チームとの間の信頼関係とオープンなコミュニケーションが重要です。
まず、治療における患者自身の主体性が大切です。
治療の選択は、医師だけが決定するものではありません。患者さんご自身が診療の目的や内容、効果と副作用について十分に理解し、納得した上で選択することが求められます。
そのため、診療に関する疑問は、その場で医師や看護師に気軽に質問してください。質問事項を事前にメモに一覧にしておくのも有効です。
また、体の症状や心の状態は、医療チームがより適切な対応(薬の調整など)を実施できるよう、正直に報告してください。
また、ご家族の役割と心のケアも重要です。
ご家族もまた、患者の病に一緒に立ち向かう人であり、大きな心の負担を抱えることになります。
ご家族は、患者さんの意思を尊重し、診療の内容を一緒に理解する役割を担い、精神的な支えとなり、孤独感や絶望感を低下させる対応が期待されます。同時に、家族自身が心のケアを利用することも大切です。
院内に存在するソーシャルワーカーや看護師、関連する相談窓口との連携を通じて、不安や負担を和らげる対応を探ることができます。
不安を和らげる心のケアと情報源の利用
がんという病気、特にステージ4の膵臓がんと向き合う時間は、心に大きな負荷をかけます。不安や落ち込みは通常の対応であり、それを認めてケアすることが重要です。心の状態は、体の経過や治療への対応にも関連します。
心の平穏を保つための対応としては、以下のようなものが例として挙げられます。
・精神科や心療内科への相談
・心を落ち着かせることができる、自分なりのリラックス法を見つける
・仕事、趣味など、前の生活と関連する活動を時間の許す限り継続する
情報源については、インターネット上にはさまざまな情報が溢れていますが、医学的根拠に基づいた正確な情報を利用することが不可欠です。信頼できる情報源として、標準的な診療内容を掲載している国や自治体が関連するサイト、専門の医療院やがんセンターの情報ページなどがあります。不安な時は、気軽にこれらの情報に触れるとともに、最終的な判断は必ず主治医や専門家と相談の上実施してください。
4.まとめ
本コラムでは、膵臓癌の肝臓転移という厳しい現実、すなわちステージ4と分類される期の標準的な診療と、それに伴う統計的な平均余命の考え方についてお伝えしました。肝臓転移があるケースでは治療が難しくなる事実はありますが、医学は日進月歩であり、最新の化学療法や分子標的薬など、新たな治療法が注目され常に進化しています。
治療の最大の目的は、がんの進行を抑えるだけでなく、患者さんが残された時間を生活の質(QOL)を高く保ちながら過ごすことです。痛みや栄養といった症状対応のための緩和ケアは、実際の経過に大きく関連する重要な対応です。
医師や看護師、そして家族とのオープンなコミュニケーションは、この闘病を乗り越えるための重要な連携であり、心のケアは体のケアと一つです。不安や落ち込みが表れてしまうのは、決して弱さではありません。つらいときは、院内の専門家の存在を気軽に利用してください。
この情報が、皆様が最善の道を探すための一助となり、希望を持って前に進む力となることを心より願っております。主治医と十分に相談の上、ご自身にとって最も納得のいく診療の選択を実施してください。
※この記事は2024年8月5日に作成され、2025年12月1日に内容を更新しました。

快適医療ネットワーク理事長
監修
医学博士 上羽 毅
金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広し知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。









