• 2023.12.25
  • 悪性リンパ腫

悪性リンパ腫のステージ・治療・症状・余命などについての解説

悪性リンパ腫は、リンパ系に発生する悪性腫瘍の一種であり、その生存率や余命は、発見時期や病気の進行度、治療法など様々な要因によって大きく左右されます。しかし、近年の医療技術の進歩により、多くの患者が適切な治療を受けることで、全体的な生存率は向上しています。

悪性リンパ腫の5年生存率は、その種類や進行度によって異なりますが、適切な治療を受けることで、約65~70%程とされています。但し、悪性リンパ腫は寛解しても再発することも多いため、慎重な経過観察が不可欠です。また再発すると、治療が難しくなることも少なくありません。

悪性リンパ腫の治療には、抗癌剤・分子標的薬を使った薬物療法や放射線療法、造血幹細胞移植などがあります。これらの治療法は、病気の進行や患者の年齢、健康状態に応じて適切に選ばれます。治療計画は個々の患者の状況を考慮し、専門医と相談しながら決定することが最善の道です。適切な医療情報を収集し、患者一人ひとりに最適な治療法を選択することが、悪性リンパ腫の生存率や余命を向上させる鍵となります。

 

そこで私たちは悪性リンパ腫の治療の改善向上に値する治療情報を発信し、悪性リンパ腫を克服に導くお手伝いをしています。

では悪性リンパ腫について解説していきます。

【1】悪性リンパ腫とは

 

悪性リンパ腫は、リンパ系の組織から発生する腫瘍(いわゆる「がん」)です。リンパ系組織とは、ヒトの免疫システムを構成するもので、リンパ節、胸腺(きょうせん)、脾臓(ひぞう)、扁桃腺(へんとうせん)等の組織・臓器と、リンパ節をつなぐリンパ管、そしてその中を流れるリンパ液からなります。

 

リンパ系組織を構成する主な細胞は、リンパ球と呼ばれる白血球です。リンパ液の中には液体成分とリンパ球が流れていて、やがて血液と合流します。リンパ系組織は全身に分布しているため、悪性リンパ腫、特に非ホジキンリンパ腫は全身で発生する可能性があります。

 

2.悪性リンパ腫の種類

悪性リンパ腫という病名は、さまざまなリンパ系組織の癌を大きくまとめて呼ぶ名前です。リンパ腫の組織形態や細胞の性質によって100種類近くに分類されます。

個々の疾患によって臨床経過や治療反応性、あるいは予後は大きく異なります。そのため、自分にとって最適な治療を選択するためには、「悪性リンパ腫の中のどのような病型(タイプ)なのか」という点を医師に確認することが重要です。

 

(1)病理組織学的分類

悪性リンパ腫には、大きく分けてホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫の2つがあります。ホジキンリンパ腫は日本では少なく、約10%です。さらに、非ホジキンリンパ腫はリンパ腫のもととなるリンパ球の種類によって、B細胞リンパ腫とT/NK細胞リンパ腫に分かれます。

 

(2)進行のスピードによる分類

非ホジキンリンパ腫は、病気の進行の速さにより「高悪性度」「中悪性度」「低悪性度」の3段階の悪性度に分けられています。

一般的に高悪性度の悪性リンパ腫は、日・週単位で急速に進行してしまう恐れがありますが、抗がん剤が効きやすい傾向があります。低悪性度の悪性リンパ腫は、進行は年単位で緩やかに進むものの、抗がん剤で治癒を得ることが難しいと言われています。

【2】悪性リンパ腫の症状

首、腋(わき)の下、足のつけ根などのリンパ節の多い部位に、痛みを伴わないしこりが触れるなどの症状がよくみられます。全身的な症状として、発熱、原因不明の体重減少、盗汗(大量の寝汗)を伴うことがあり、これらの3つの症状を「B症状」といい、特に重要視されています。体のかゆみを伴うこともあります。その他、皮膚の発疹(ほっしん)、しこり、いろいろな場所の痛みで気づくこともあります。

【3】悪性リンパ腫の診断

悪性リンパ腫の診断に用いられる検査には、以下のようなものがあります。

 

(1)リンパ節生検

大きくなっているリンパ節のすべて、あるいは一部を、いろいろな検査に用いるために局所麻酔を行って採取します。採取された組織は、病理医が顕微鏡で細胞の形態を調べて、病理学的分類を行うのに用いられます。また組織の一部は、診断に重要な染色体検査や遺伝子検査にも使われ、最終的にどのタイプの悪性リンパ腫なのかを判定します。

 

(2)病気の広がりをみる検査

悪性リンパ腫に対する最適な治療を選択するために、PET検査で全身を確認し、骨髄検査で骨髄への広がりを確認します。また、リンパ腫が消化管に広がっている可能性がある場合は消化管内視鏡検査を行い、脳や脊髄に広がっている可能性がある場合は脳脊髄液検査を行います。

 

(3)全身状態と、原因となるウイルスをみる検査

血液検査や尿検査によって全身状態を確認します。特に、病気の勢いを予測するためには乳酸脱水素酵素(LDH)、C反応性蛋白(CRP)、可溶性インターロイキン‐2(IL-2)受容体をチェックすることが大事です。悪性リンパ腫の中には、ウイルス感染を契機に発生するものがあります。このため、さまざまなウイルスの感染状況を調べることも重要になります。

【4】悪性リンパ腫の治療

1.治療の選択肢

治癒を目指した治療を行う場合、まず完全寛解(かんぜんかんかい)という状態を目指します。完全寛解とは、治療前に腫(は)れていたリンパ節や、CTなどで指摘されていた病変が小さくなって消失するか、あるいは正常の大きさになり、発病前と同じ状態になることを指します。完全寛解が得られた後に予定どおりの治療を行い、終了後、経過をみていても再発しない場合を治癒といいます。およそ5年間の観察期間が必要であると考えられています。

悪性リンパ腫の治療法には次のようなものがあります。

 

(1)放射線療法

放射線療法は、高エネルギーのX線を病気のある部位に照射して、腫瘍に対する殺細胞効果を期待し行われます。リンパ腫の広がりが狭く、1ヶ所に集まっている場合に有効です。

また、疼痛緩和を目的として行う場合もあります。

 

(2)化学療法

抗癌剤を経口(内服薬)、あるいは静脈内投与することによって、腫瘍の殺細胞効果・増殖抑制効果を期待し行われます。腫瘍があることがわかっている場所に効果があるばかりでなく、診察や画像診断ではわからない微小な病変部位に対しても効果が期待できます。

 

(3)生物学的製剤

最近よく使われる薬がリツキサンです。CD20という、成熟B細胞の性格を示す悪性リンパ腫に効果があります。抗体に放射性同位元素を結合したものも開発され、海外では再発・難治性の低悪性度群リンパ腫に効果が認められています。日本でも承認申請が出されています。

 

(4)経過観察(注意深い観察)

ゆっくり進行する低悪性度のリンパ腫の場合、全く無症状で何年も経過することがあります。化学療法を行うメリットがないと判断される場合には定期的に診察を続け、何か症状が出たときにはじめて治療を行うという選択です。

 

(5)造血幹細胞移植

標準的な化学療法だけでは再発の可能性が高い場合に、大量の抗癌剤を使用することで治癒を期待し行われます。あらかじめ患者の造血幹細胞を採取しておき、強力な化学療法を行い、その後採取していた造血幹細胞を戻す(または健康なドナーから提供された造血幹細胞を移植する)ことで、造血機能の再構築を行います。

 

 

2.ホジキンリンパ腫の治療方針

ホジキンリンパ腫には大きく分けて下記の2つのタイプがあり、(1)のほうがゆっくり進行し、ステージが早い段階で病気が発見されることが知られています。したがって、同じステージが早い患者さんでも、(1)か(2)によって放射線療法と化学療法のどちらが主体になるか若干異なります。

 

(1)結節性リンパ球優位性ホジキンリンパ腫(Nodular Lymphocyte Predominant Hodgkin Lymphoma)

(2)古典的ホジキンリンパ腫(Classical Hodgkin Lymphoma)

1.限局期(ステージIあるいはII)の場合

病理組織学的分類が(1)で、全身症状(B症状:発熱、体重減少、夜間寝汗)がなければ放射線療法が基本となります。B症状を伴うか、あるいは病理組織学的分類が(2)の場合には、化学療法と放射線療法を組み合わせる方針を採ることが原則となります。

 

2.進行期(ステージIIIあるいはIV)の場合

病組織学的分類にかかわらず、化学療法が主となります。発症時に非常に大きな腫瘤(しゅりゅう)があった場合や、化学療法後に腫瘤が残存した場合には、放射線療法が追加されることがあります。ホジキンリンパ腫に対する代表的な化学療法は、ABVD療法です。

 

3.非ホジキンリンパ腫の治療方針

(1)低悪性度群リンパ腫

濾胞性リンパ腫やMALT(マルト)リンパ腫のステージIあるいはIIの限局期の場合には、原則として放射線療法が行われます。ステージIIといっても発症場所が複数あり、かなり距離が離れている場合には進行期と同じ対応となることがあります。ステージIIIおよびIVの場合には、経過観察、化学療法、抗CD20モノクローナル抗体(リツキサンなど)、圧迫症状を呈する部位への放射線療法等の選択肢があります。また最近は、濾胞性リンパ腫の予後因子であるFLIPIを用いて方針を決めることも多くなってきています。ほか、造血幹細胞移植が行われることもあります。

 

(2)中悪性度群リンパ腫

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫が代表的な疾患です。ステージIおよびIIのときには化学療法単独か、化学療法と放射線療法の併用が行われます。ステージIIIおよびIVでは化学療法が主体となります。代表的な化学療法はR-CHOP(アール-チョップ)療法です。

国際予後因子(IPI)で高中危険群以上の予後不良であることが推測されるときには、初回寛解中に自家末梢血幹細胞移植を行うことで予後が改善されることを示唆する報告がありますが、まだ結論は出ていません。

 

(3)高悪性度群リンパ腫

リンパ芽球型リンパ腫は、急性リンパ性白血病とほぼ同じ化学療法が行われます。中枢神経浸潤を来す可能性が高いので、化学療法剤の髄腔(ずいくう)内投与が予防的に行われます。バーキットリンパ腫には有効な化学療法が開発されています。予後不良であることが予測されるときには、造血幹細胞移植を選択することもあります。

快適医療ネットワーク理事長

監修 
医学博士 上羽 毅

金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広し知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。