• 2025.07.03
  • 乳がん

乳房の痛みの原因は?乳がんとの関係や検診も解説

ふとした瞬間に感じる胸の張りや、ズキッとした乳房の痛み。
「もしかして乳がんかも?」と不安に駆られた経験がある女性は、決して少なくないのではないでしょうか。日本人女性の9人に1人が生涯で乳癌に罹患するとも言われ、その罹患率は年々増加傾向にあります。乳がんは、私たちにとって最も身近な悪性腫瘍のひとつなのです。
しかし、乳房の痛みの原因が、すべて乳がんにあるわけではありません。むしろ、痛みという症状が乳がんの初期段階で現れることは比較的まれです。

では、この不快な痛みの正体は何なのでしょうか。その多くは、女性ホルモンのバランスの変化、特に「エストロゲン」の働きが深く関わっています。月経周期に伴って胸が張って痛む、更年期や閉経期にホルモンバランスが乱れて痛みを感じる、といったケースは非常に多く見られます。これらは乳腺症など、がんではない良性の状態であることがほとんどです。

一方で、乳がんの発症には、無視できないいくつかのリスク因子が明らかになっています。例えば、出産経験の有無や初産の年齢が遅いこと、初潮が早いことや閉経が遅いことなど、生涯でエストロゲンにさらされる期間が長いほど、そのリスクは高まると考えられています。また、閉経後の肥満、アルコールや喫煙の習慣、欧米化した食生活といった生活習慣も、発症のリスクを高めることがわかっています。さらに、家族に乳がんや卵巣がんの既往歴がある場合、特定の遺伝子(BRCA遺伝子など)が関わる遺伝性のリスクも注意が必要です。
ご自身の年齢や生活習慣、家族歴を振り返り、少しでも不安を感じた方もいらっしゃるかもしれません。大切なのは、いたずらに怖がるのではなく、正しい知識を持つことです。

このコラムでは、乳房に痛みが起こる様々な原因を詳しく解説し、乳がんと痛みの関係性を明らかにします。さらに、ご自身でできるセルフチェックの方法から、40歳を過ぎたら定期的に受けたいがん検診(マンモグラフィや超音波検査)の種類とそれぞれの特徴、そして乳がんの予防や早期発見のために日常生活でできることまで、知りたい情報をもれなくお届けします。
乳房の痛みというサインを正しく理解し、ご自身の体を守るための第一歩を、ここから踏み出しましょう。

【最新情報】研究を重ねた結果、がんのタイプを選ばず勢いを抑える「乳がん克服に必要な成分」を特定しました。

1.乳がんの症状と原因

乳がん1

乳がんは、乳腺内で細胞が異常に増殖することで発症します。女性のみのがんと思われがちですが、まれに男性が発症することもあります。しこりや乳頭からの分泌物といった典型的な症状が知られていますが、初期の段階で痛みを感じる方はあまり多くありません。
乳がんによる乳房の痛みは、腫瘍の大きさや位置によって神経が刺激されることや、乳がんが周囲の組織に影響を与えることが原因と考えられています。
また、乳房のしこりや皮膚の変化、乳頭からの分泌物などとあわせて痛みが現れることもあります。ホルモン(とくに女性ホルモンのエストロゲン)や年齢、遺伝子変異(BRCA遺伝子を含む)といったさまざまな要因が乳がんの発症や進行に関わるリスク因子として知られています。
乳がんは、早期に発見できれば治療の選択肢が広がり予後も改善されることが報告されています。がん検診を定期的に受けることが、命を守る第一歩です。

 

痛みが生じる仕組み

乳がんによる痛みは、主にがん細胞が乳腺組織内で増殖することで周囲の正常な組織が圧迫され、神経が刺激されることによって生じます。特に腫瘍が皮膚や筋肉、神経の近くにある場合は、比較的強い痛みを伴うことがあります。
また、がんが進行してリンパ節や血管、周囲の臓器に浸潤すると、その浸潤によって慢性的な圧迫や炎症が起こり、痛みを感じやすくなります。術後や治療中に感じる痛みも、放射線や化学療法の影響による組織の損傷や神経への刺激が関係しているとされています。
個人差はありますが、痛みの出方はがんのステージや腫瘍の位置、ホルモンの影響などさまざまな因子によって左右されるのが特徴です。

 

痛みのタイプと特徴

乳がんの痛みにはいくつかのタイプがあり、その現れ方もさまざまです:
・しこりや腫れに伴う局所的な痛み:押すと痛みを感じたり、違和感が続くことがあります
・乳房全体の痛み:月経周期やホルモンの変動と関わることが多く、一時的なこともあります
・乳頭や乳腺周辺の痛み:進行した乳がんによって炎症が起きているサインかもしれません
・腋の下(腋窩)のリンパ節の痛みや腫れ:転移が関与している可能性があるため注意が必要です

 

痛みのある乳がんはどれくらい?

「痛み=乳がん」とは限らず、痛みのある乳がんのケースは全体15%程度とされています。
逆に、初期段階でも痛みを感じる人もいれば、進行しても痛みがない人もいます。つまり、痛みの有無だけでは進行度を判断するのは難しいのです。
違和感や不安を覚えたら、たとえ「いつもと同じ痛みだから」と思っても、一度医師に相談することをおすすめします。自分の体としっかり向き合い、早めに行動することで、リスクを防ぐことにつながります。

 

乳がん症例一覧へ

 

2.乳がん以外の乳房の痛みの原因

乳がん2

実際には、乳房の痛みの原因は乳がんだけではありません。
以下に、乳房の痛みを引き起こす主な要因をいくつか挙げます。

 

良性の乳腺疾患による痛み

乳房の痛みの原因には、乳腺炎、乳腺腫、乳管拡張症、乳腺筋腫症といった良性の乳腺疾患が関係していることがあります。
これらの疾患は、ホルモンバランスの変動や年齢、出産歴、飲酒・喫煙、食生活などの生活習慣に影響を受けて発症するとされています。しこりや腫れ、押したときの痛みなどの症状が現れますが、乳がんとは異なり多くの場合は良性です。
とはいえ、症状が続く場合や痛みが増してくるときは、医師の診断を受けることが重要です。良性疾患であっても、経過を観察したり、必要に応じて治療を行うことで症状が軽減されるケースが多くあります。

 

月経前症候群(PMS)・妊娠による乳房の痛み

月経前や妊娠初期に感じる乳房の張りや痛みは、ホルモンバランスの変化が主な原因とされています。
特に、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンの分泌量が急激に変動することで、乳腺が刺激され、チクチクしたり張ったような感覚が現れることがあります。
こうした痛みは、生理が始まると自然におさまることが多く、妊娠中であれば進行とともに症状が落ち着く場合が大半です。ただし、痛みが強く続いたり、左右差が大きいときなどには、ほかの疾患が隠れている可能性もあるため慎重に観察することが大切です。

 

炎症や感染による乳房の痛み

乳腺や皮膚に炎症や感染が起こることで、乳房に痛みが生じることがあります。
たとえば、授乳中の女性では乳腺に母乳がたまりやすく、細菌感染が起こりやすいため「乳腺炎」が発症しやすくなります。また、皮膚の小さなキズや乾燥部位から細菌が侵入し、発赤や腫れを伴う痛みを引き起こすこともあります。
乳房の炎症性疾患の多くは適切な抗生物質治療や生活指導により比較的早く改善が見込まれますが、進行すると膿がたまる「膿瘍」に至ることもあるため、早期の対処が大切です。症状の有無にかかわらず、乳房の変化に気づいたら注意深く観察することが勧められます。

 

【最新】乳がん患者様の克服症例を公開いたします。

3.乳がん検診と痛みの関連性

乳がん3

乳がん検診では、しこりや皮膚の変化、乳頭からの分泌物などの異常を見つけることが重要視されます。多くの場合、乳がんの初期症状に痛みは少なく、必ずしも「痛み=乳がん」とは限りません。
ただし、痛みがある場合でも乳腺炎や良性腫瘍、ホルモンの変化など、他の病気との鑑別が必要なため、検診は有効です。乳がんは遺伝的因子や女性ホルモン(特にエストロゲン)の影響、年齢や出産歴など多様なリスク因子が関与すると言われています。
日本では乳がんの罹患率が40歳以上で増加傾向にあり、症状の有無にかかわらず検診を受けることで、早期発見や予防につながります。

 

乳がん検診の具体的な方法

乳がん検診では、まず医師の触診で乳房全体やリンパ節にしこりや腫れがないか確認します。そのうえで、マンモグラフィやエコー(超音波)検査が行われます。
マンモグラフィは石灰化や乳腺の異常を写し出すのに適しており、特に閉経後の女性に有効とされます。一方で、エコー検査は比較的若年層や乳腺の密度が高い人にも適しており、腫瘍の性質や位置を把握するのに役立ちます。
これらの組み合わせにより、痛みの原因や乳がんのステージ判定、良性・悪性の識別が可能になります。乳がんの早期発見・早期治療において、こうした定期的ながん検診の役割は非常に大きいです。

 

痛みを伴う乳がんの診断が難しい理由

乳房の痛みが乳がんによるものかを見分けるのは簡単ではありません。先に述べたように、乳腺炎、良性腫瘍、ホルモンの変化など、さまざまな要因でも痛みは生じるからです。月経周期やエストロゲンの急激な変化、出産や授乳の経験、肥満、飲酒、喫煙といった生活因子も痛みに関係するとされています。
また、乳がん自体による痛みは、がんが進行して神経や周囲の臓器に関与するステージで起こることが多いため、初期には痛みがないことも少なくありません。つまり、「痛みがあるから安心」でも「痛みがないから安心」でもないのです。
リスクの有無にかかわらず、定期的ながん検診や自己触診の習慣化が、早期発見の鍵となります。

乳がん克服者に学ぶ克服の秘訣

 

4.乳がんの痛みへの対処方法

乳がん4

乳がんの痛みに対処する方法は、まず痛みの原因を特定し、適切な治療を行うことが必要です。
乳がん以外の痛みの原因が判明した場合は、その病気の治療法に従って対処します。乳がんの痛みが確認された場合は、手術や放射線治療、抗がん剤などの治療が行われます。
また、痛みを緩和するために、鎮痛剤の使用や、リラクゼーション法、マッサージ、温熱療法などの方法が役立ちます。生活習慣の改善やストレスの軽減も痛みの軽減に繋がるため、日々の生活で意識することが大切です。
乳がんの痛みに悩まされている場合は、医師と相談し、適切な対処法を見つけることが大切です。

 

痛みを緩和する治療法の選択

乳がんによる痛みを緩和するためには、その原因や症状に応じた治療法を選択することが重要です。
まず、痛みの原因は乳がんの進行や腫瘍の位置、リンパ節への転移などが関係していることが多く、病院での診断や検査が必要です。
治療法としては、手術や放射線療法、化学療法、ホルモン療法などがありますが、患者の状態や進行具合によって適切な治療方法が異なります。
また、痛みに対する薬物療法も一般的で、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や鎮痛薬の処方が行われることがあります。さらに、神経ブロックや酸素療法、緩和ケアなども痛みの緩和に効果的な選択肢となります。
患者本人の心身のバランスも痛みに影響するため、リラクゼーションやストレス緩和が求められます。

 

日常生活での痛み対策

日常生活の中で乳がんの痛みに対処する方法として、以下の対策があります。
まずは、適度な運動やストレッチを取り入れることで、筋肉の緊張を和らげ、関節の動きをスムーズにすることが効果的です。また、熱や冷たさを利用した温熱療法や冷却療法が痛み緩和に役立ちます。
睡眠も痛み対策には重要で、質の良い睡眠を確保するために、寝具の選択や寝る前のリラクゼーションが大切です。
さらに、食事や栄養バランスも痛みに関与するため、抗酸化物質やビタミンを多く含む食材を積極的に摂取しましょう。自分の体調や痛みの状態を把握し、無理をせず適度な休息を取ることも大切です。

5.乳がんの痛みと向き合う

乳がん5

乳がんによる痛みと向き合っていく中で、自分に合った治療法を見つけること、そして日々を心地よく過ごす工夫を重ねることがとても大切です。
治療には手術や放射線療法、薬によるアプローチのほか、リラクゼーションや気分転換など心のケアも含まれます。さらに、無理のない範囲で体を動かしたり、しっかり休息をとったり、バランスの取れた食事を意識することも、痛みの軽減につながります。
一人ひとりの症状や生活に合ったサポートを受けながら、少しずつでも穏やかな毎日を取り戻していけるはずです。痛みがあるときこそ、自分の体の声に耳を傾け、安心できる選択を重ねていきましょう。

 

※この記事は2024年9月9日に作成され、2025年7月3日に内容を更新しました。

 

快適医療ネットワーク理事長

監修 
医学博士 上羽 毅

金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広し知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。