- 2025.12.10
- 肺がん
肺がん治療中の食欲不振と体重減少 食事の工夫で体力を維持する栄養対策
肺がんと診断され、治療が始まると、多くの方が食欲不振や体重の低下といった症状に直面します。
特に、抗がん剤や放射線などの治療方法は、副作用として食欲を大きく低下させることがあります。これは治療を受ける人にとって心身ともに大きな負担となります。
しかし、体力を維持し、治療を最後まで受けきるためには、適切な食事と栄養の摂取が極めて重要です。栄養状態が悪化すると、治療効果が低下したり、副作用が強く出やすくなったりするリスクがあるためです。
体力の維持は、がんという病気と闘ううえで最も大切な要素の一つです。
このコラムでは、肺がん治療中に食事の量が減ってしまう人や、体重の低下に不安を感じている方のために、実践的な栄養対策と食事の工夫について解説します。
1.肺がん治療による食欲不振・体重減少の原因
食欲不振や体重減少(悪液質)が起こる原因はひとつではなく、主に以下に示した3つが関連しています。
これらの原因を理解することは、適切な対策を行っていくための第一歩です。
治療による直接的な副作用
抗がん剤や放射線治療は、がん細胞だけでなく、正常な細胞にも影響を与えます。
・抗がん剤
吐き気・嘔吐、口内炎、味覚障害などの副作用を引き起こし、食欲を低下させます。
特に抗がん剤の種類や投与量によって、副作用の程度や時間が異なります。
これらの症状は、食事を食べる能力を著しく低下させます。
・放射線治療
胸部への放射線治療は、食道や胃の粘膜に炎症を引き起こし、食事の際に痛みや違和感を感じやすくなり、食事の量が減ってしまうことがあります。
この炎症は治療中から治療後しばらく続く時があります。
・手術
手術後の回復のために一時的に食事が制限されたり、体が疲労している時に食欲が戻らないことがあります。
がんそのものによる影響(悪液質)
がんの病気の進行や炎症の影響で、体内では「サイトカイン」という炎症性物質が多く作られます。
これらは脳の食欲中枢に作用し、食べたいという意欲を低下させたり、摂取した栄養素の利用を妨げたりします。
この状態をがん悪液質と呼び、体重の低下や筋肉の量の減少、全身の倦怠感を引き起こします。
単なる食欲不振ではなく、体の代謝そのものが変化している状態であるため、積極的な栄養の摂取が必要です。
体重が20%以上減ると、治療の継続が難しくなるケースもあり、早期の対策が重要です。
精神的なストレスと生活の変化
がんの診断や治療に対する不安、入院による生活の変化も、食欲に大きく影響します。
特に現在の状態への不安や抑うつ状態は、消化器の機能にも影響し、食欲不振の一因となることも多いのです。
医師や看護師だけでなく、臨床心理士などに相談し、心の状態をケアすることも大切です。
2.食欲不振・体重減少を防ぐ3つの対策
食事の量が減っている時でも、体力を維持し、治療を続けるためには、効率よく栄養を摂取する必要があります。
主治医や管理栄養士と相談のうえ、できる範囲での適切な対策を行いましょう。
高カロリー・高たんぱく質を意識
食事の量を多く食べられない時には、少ない量で高い栄養素が摂れるように工夫します。
・たんぱく質(Protein)の重要性
たんぱく質は、体の免疫機能、傷の修復、筋肉を維持するために最も重要な栄養素です。
がん治療中は健康な時よりも多くの量が必要となります。
肉や魚だけでなく、卵、乳製品、大豆製品など、多様なたんぱく質源を意識的に摂取する必要があります。
特に魚類に含まれる良質な脂質も、炎症を軽減する効果が期待されています。
・エネルギー(カロリー)を効率よく摂る
体重維持のためには、炭水化物や脂質によるエネルギー摂取が不可欠です。
食欲がない時は脂肪を追加することで、食事の量を大幅に増やすことなくカロリーを増やせます。
例えば、スープや牛乳に油脂や生クリームなどの乳製品を少量加えるなど、簡単にできる工夫を取り入れてみましょう。
これらの工夫は、胃への負担を軽減しつつ、必要なエネルギーを体に届けるために有効です。
・ビタミンとミネラルのバランスを意識
ビタミンやミネラルは、体の機能を正常に保つために必要な栄養素です。
特に野菜や果物に含まれる抗酸化作用のある成分は炎症を抑える効果も期待できますが、生野菜の摂取には衛生上の注意が必要です。
体調に応じて、加熱したり、ジュースなどに加工したりして摂取の工夫を行います。
食事の環境と時間の工夫(QOLの維持)
食べる事への精神的な負担を軽減することも大切です。
・少量頻回食
1日3食にこだわらず、食事の時間を小分けにして、食べられる時に少量ずつ食べる方法が有効です。
特に体調が良い時や時間を見計らって摂取します。
間食として高カロリーな栄養補助食品や乳製品を利用するのも良い方法です。
・リラックスできる環境を作る
食欲を増進させるために、食事の場所を変えたり、音楽をかけたりして気分を変えたりと変化をつけるのもいいでしょう。
また、食前に口腔ケアを行い、口の中を清潔にすることは、味覚障害の軽減や食欲増進につながります。
・調理の負担軽減
せっかく食事を用意しても食べられないことは、患者さまにもその家族にも心理的な負担があります。
手間をかけずに簡単に準備できる食品や、患者様が食べたいと感じるものを優先して準備しましょう。
医療スタッフとの連携と栄養補助食品の活用
食欲不振や体重減少が著しい場合、自己判断せず専門的なサポートを利用します。
・医療用栄養補助食品
少量で高カロリー・高たんぱく質が摂取できる濃厚流動食やゼリーなどの補助食品が病院や薬局で利用できます。
これらは適切な栄養素のバランスが考慮されており、食事が摂れない時の心強い味方となります。
必ず医師や管理栄養士に相談し、ご自身の状態に合ったものを選択することが大切です。
・主治医への相談
食欲不振が続く場合は、医師に相談して食欲増進作用のある薬の利用を検討することも可能です。
特にがん悪液質が進行している時は、薬による治療も効果が期待できます。
3.副作用別の具体的な対策とは
副作用の種類によって、食事の内容や方法を調整する必要があります。
主治医や看護師に症状を詳細に伝え、適切なアドバイスを受けましょう。
副作用の症状別・食事の工夫
吐き気・嘔吐
・匂いの少ない食品を選ぶ(冷たい食べ物、ゼリーなど)。
・食事の直前の水分摂取を避ける。
・あっさりとした消化の良い食事を少量摂る。
・食後すぐに横にならず、安静を保つ。
・吐き気の軽減を目的とした薬の利用も検討します。
口内炎・喉の痛み
・熱いもの、酸味の強いもの(柑橘類など)、刺激物(香辛料)を避ける。
・舌で潰せるような柔らかい食事(プリン、豆腐、ポタージュスープ、裏ごし野菜)を中心にする。
・ストローを利用し、直接患部に触れない工夫も有効です。
・口腔内を清潔に保つことが、痛みの軽減につながります。
味覚障害
・甘みや塩味、苦味を感じにくい時は、だしや香りの良い食品(ごま、ハーブ、レモン)を利用して風味を工夫する。
・金属の味が気になる時は陶器やプラスチックの食器を利用する。
・冷たい食べ物は味覚を感じやすい時があります。
下痢
・脂の多い食べ物や牛乳など乳製品を控える。
・消化の良い炭水化物(お粥、うどん、白パン)を中心に。
・脱水を防ぐために水分補給はこまめに。スポーツドリンク等で電解質を補給するのもおすすめ(糖分が多いため注意)
・食物繊維が多い野菜や果物は一時的に量を減らし、様子を見ましょう。
4.がん治療中の水分補給と衛生管理
治療中は免疫機能が低下しやすいため、食事の内容だけでなく、安全に食べるための衛生管理も重要になります。
水分補給の徹底で脱水を避ける
体の約60%は水分で占められており、脱水は体調の低下を招き、薬の代謝にも影響を与えます。特に吐き気や下痢がある時は、意識的な水分補給が必要です。
一度に多く飲むと吐き気を誘発する可能性があるため、少量を時間を空けて頻回に摂取します。水や、お茶だけでなく、スポーツ飲料や経口補水液などを利用し、電解質と水分をバランスよく補給することが大切です。
免疫低下時の食中毒予防
免疫が低下している時には、通常は問題のない菌でも重症化するリスクがあるため、食中毒の予防が大切です。
・生の食品を避ける
生肉、生魚(刺身)、生卵、生野菜は、医師の指示に従い、加熱して摂取することが推奨されます。
特に免疫抑制薬を受けている人は厳重に注意が必要です。
・調理と保存の注意
調理の前には必ず手を洗い、食品は中心部までしっかりと加熱します。
残った食事は早めに食べきるか、適切に保存しましょう。
賞味期限や消費期限にも特に注意を払う必要があります。
5.まとめにかえて
肺がん治療中の食欲不振や体重減少は、抗がん剤治療において副作用としてつきまとう症状であり、患者様ご自身やご家族に多大な不安を与えます。
しかし、適切な知識と工夫(高カロリー・高たんぱく質の摂取、少量頻回食、副作用に合わせた食事の調整)を行えば、体力を維持し、治療を前向きに乗り切ることが可能です。
食事の工夫は決して一人で抱え込む必要はありません。主治医や看護師、病院の管理栄養士に積極的に相談し、チームとして栄養状態をサポートしてもらいましょう。専門家の意見を参考に、ご自身に最も良い方法を見つけることが大切です。
体調に不安を感じた時や、食事の方法で迷った時は、遠慮なく医療機関へ問い合わせをしてください。ご自身とご家族の心身の健康を大切に、一歩ずつ治療を進めていきましょう。

快適医療ネットワーク理事長
監修
医学博士 上羽 毅
金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広し知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。










