- 2024.04.22 2026.09.02
- 肺がん
知っておきたい肺がん治療の抗がん剤と副作用情報
肺がんの治療方針を説明されるなかで、「抗がん剤」だけでもいくつも名前が出てきて、混乱してしまったという方は少なくありません。ひとくちに抗がん剤治療といっても、細胞そのものを攻撃するタイプ、特定の遺伝子の変化を狙い撃ちにするタイプ、免疫の力を借りるタイプなど、はたらき方の異なる薬がいくつも存在します。どの薬が選ばれるかによって、気をつけたい副作用や治療のリズムも変わってくるため、まずは薬の全体像をつかんでおくことが、治療と向き合う支えになります。この記事では、肺がんで使われる抗がん剤の種類、起こりやすい副作用とその工夫、治療のスケジュール、そして費用や公的支援制度まで、順番に整理していきます。
目次
1.肺がんの抗がん剤治療、まず知っておきたい基本
「その薬、本当に効くんですか」そう聞きたくても、なかなか言い出せずにいる方もいらっしゃるかもしれません。まずは薬が選ばれる理由から、一緒に見ていきましょう。
抗がん剤治療は、どんなときに選ばれるの?
抗がん剤という言葉の重さに、身がまえてしまう方は少なくありません。「なぜこの治療なのか」、その答えを探すところから始めてみましょう。
がんの治療には、患部に直接はたらきかける「局所的な治療」と、体全体を通してはたらく「全身的な治療」という、大きく2つの考え方があります。手術や放射線治療は前者にあたり、抗がん剤治療(化学療法)は血液の流れを介して薬を体じゅうに行きわたらせる、後者を代表する薬物療法です。この薬物療法をどのように組み立てて行うかは、がんの進行度や患者様それぞれの因子によって変わり、体全体の働きをふまえた総合的な判断が必要になります。がんを手術で取りきれないとき、あるいは離れた臓器への転移がみられるときのほか、手術のあとに目に見えない小さながん細胞が残っている可能性を考えて、再発を防ぐ目的で薬を投与する治療法が加えられることもあります。
肺がんは、細胞の性質によって非小細胞肺がんと小細胞肺がんという2つのタイプに大きく分類され、進行の段階(ステージ)や遺伝子変異の有無に応じて、用いられる治療の組み立て方は患者様ごとに変わってきます。「肺がん」とひとくくりに言っても、検査結果次第でまったく違う治療内容になる程度の差があるのは、こういった理由からです。日本肺癌学会がまとめている診療ガイドラインが、こうした判断のよりどころのひとつとなっています。
「私に合った治療方針は、どういう考え方で診断・決定されたのですか」と尋ねてみるのも、理解を深める一つの方法です。一般的な考え方を知っておくだけでも、担当医の説明が頭に入りやすくなります。
肺がんは本当に良くならないのか?
同じ肺がんと向き合い、乗り越えた方がいます。実際の記録をご覧ください。
2.肺がんに使われる抗がん剤の種類
薬の名前を一つひとつ覚えなくても大丈夫です。ここでは、肺がんの治療で使われる薬を3つのグループに分けて、それぞれの役割を見ていきましょう。仕組みがわかれば、担当医からの説明もぐっと聞き取りやすくなります。
細胞障害性抗がん剤(化学療法)とは
「抗がん剤」と聞いて多くの方が思い浮かべるのが、この細胞障害性抗がん剤かもしれません。どのように効果を発揮するのか、見ていきましょう。
細胞障害性抗がん剤は、がん細胞のDNAに結合し、細胞分裂や増殖を妨げることで効果を発揮する薬です。シスプラチンやカルボプラチンといったプラチナ製剤をベースに、パクリタキセルやドセタキセル、ビノレルビン、ゲムシタビン、イリノテカンなどをいくつか組み合わせるかたちで、点滴注射による治療が進められるのが通例です。これらの薬を含む治療計画は、体の状態に応じて調整されます。がん細胞だけでなく、正常に増殖している細胞にも影響が及びやすいという特徴があり、吐き気や嘔吐、脱毛、白血球の減少といった副作用が比較的出やすい薬でもあります。がんの型や患者様の状態、これまでの治療経過などをふまえて、どの薬剤をどのくらいの量で使うかが判断されます。定期的な血液検査を行い、赤血球や血小板の数値に大きな変化がないか、貧血の兆候はないかを確認することも大切です。
「この抗がん剤は、具体的にどんな仕組みでがんに効くのですか」と聞いてみると、副作用への心構えもしやすくなります。
分子標的薬とは
薬の名前に「〜マブ」「〜ニブ」とつくものを見て、戸惑った経験はありませんか。これらの多くが、この分子標的薬にあたります。
分子標的薬は、EGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子など、がん細胞の増殖にかかわるさまざまな分子の一部をピンポイントで狙い撃ちする薬です。事前の遺伝子変異検査で該当する変異が見つかった場合に、使用が検討されます。細胞障害性抗がん剤のように正常な細胞まで幅広く影響するわけではないため、比較的副作用が抑えられる場合がある一方で、皮膚の症状や下痢・便秘、まれに間質性肺炎や肝機能障害・腎機能障害といった、この種類の薬に特徴的な副作用が起こることもあります。効果が高い方もいれば、思うような効果を得にくい方もいるなど、薬の効き方には個人差があります。内服薬として自宅で服用を続けるタイプが多いことも特徴のひとつです。新しい臨床試験の結果をふまえた薬の開発も進んでおり、治療の選択肢は少しずつ広がってきています。
「私の遺伝子検査の結果では、この薬は当てはまりますか」と確認してみると、治療方針への理解が深まります。
免疫チェックポイント阻害薬とは
「自分の免疫でがんと戦う」と聞くと、少し不思議に感じるかもしれません。その仕組みを覗いてみましょう。
がん細胞は、免疫の攻撃にブレーキをかける仕組みを利用して増殖することがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、このブレーキを外すことで、もともと体に備わっている免疫のはたらきでがん細胞を攻撃できるようにする、分子標的治療とはまた違う考え方の薬です。ニボルマブなどが代表的な薬剤で、がん細胞の表面にあるPD-1やPD-L1というたんぱく質のはたらきに注目したものです。非小細胞肺がん・小細胞肺がんいずれにも、手術後(術後)の再発予防を含めて使われることがあり、単独で使う場合と、抗がん剤や放射線療法と併用する場合があります。免疫のはたらきが強く出すぎることで、肺や腸、皮膚などに感染症とは違う炎症のような副作用や、関節の痛みが出ることがあり、そのため細胞障害性抗がん剤とは異なるタイプの注意が必要とされています。この点について、担当医から解説を受けておくと安心です。主な副作用のパターンを事前に知っておくことが、なによりの備えになります。
「この薬ならではの副作用にはどんなものがありますか」と、担当医や看護師に聞いておくと安心です。
3.抗がん剤治療で起こりやすい副作用と、やわらげる工夫
薬の仕組みがわかったところで、気になるのは日々の体調の変化ではないでしょうか。ここから先は、時期によって出やすい副作用のタイプと、それぞれへの向き合い方を確認していきましょう。
治療直後から気をつけたい副作用(吐き気・脱毛・骨髄抑制など)
「こんなはずじゃなかった」と戸惑う変化が、治療の直後から数日のうちに現れることがあります。口内炎ができて食事がしみたり、症状の軽い重いに個人差が出たりすることも珍しくありません。代表的な副作用をあらかじめ知っておくと、慌てずに対応できます。
【 初期の変化と上手に付き合うヒント】
- 吐き気止めの使い方を事前に相談しておく
特に吐き気の出やすい薬剤を使うときは、あらかじめ対策を立てておくと安心です。 - 脱毛が気になる場合は、事前にウィッグや帽子を用意しておく
治療が始まってから探すよりも、心の余裕を持って選べます。 - 人混みやマスクで感染予防を意識する
白血球が少なくなる時期は、ちょっとした風邪も重くなりやすいためです。 - 定期的な血液検査で、数値の変化を確認する
自覚症状が出にくい骨髄抑制も、検査でいち早く気づくことができます。
あらかじめ流れを知っておくだけで、実際に症状が出たときの戸惑いはぐっと小さくなります。「この症状は、いつまで様子を見て大丈夫ですか」と担当医に聞いておくと、判断の基準ができて安心です。38度以上の発熱や、いつもと違う出血がみられるときは、次の予約を待たずすぐに連絡してください。
数週間かけてあらわれる副作用とセルフケア(末梢神経障害・食欲不振・倦怠感など)
治療をいくつか重ねたころに、じわじわと感じるようになる変化もあります。外科的な処置とは違い、以下のような消化器症状を含め、体の内側からくる変化には気づきにくいこともあります。焦らず、そのつど対処していきましょう。
【無理せず続けるための工夫】
- 手足の感覚の変化に気づいたら、保護を優先する
しびれがあるときはやけどやケガに気づきにくいため、厚手の靴下や手袋で守りましょう。 - 食べられるときに、食べられるものを選ぶ
栄養バランスにこだわりすぎず、口にできるものを少しずつ試してみてください。 - 無理に予定を詰め込まない
倦怠感が強い日は、家事も外出もいったん横に置いて、休むことを優先してよいのです。 - 気づいたことをメモに残す
いつ、どんな変化があったかを書き留めておくと、診察時に的確に伝えられます。
小さな工夫の積み重ねが、これから続く治療を乗り越える体力と気持ちの余裕につながっていきます。副作用の出方を知ることは、今後の見通しを考える参考にもなります。食欲の低下や体力の変化に、過度な期待をせず気長に付き合っていく姿勢も大切です。「普段の生活でどこまで無理していいか」を担当医に相談してみましょう。咳や息切れが急に強まったときは、間質性肺炎など注意が必要な副作用の可能性もあるため、すぐに医療機関へ連絡してください。
4.治療のスケジュールと日々の生活との両立
副作用への心構えができたら、次はスケジュールです。見通しが立つと、仕事や家事の調整もしやすくなります。
抗がん剤治療のクール(サイクル)と休薬期間の目安
「いつまで、どれくらいのペースで続くのか」治療を始めたばかりの頃、多くの方が気にかけることです。担当の先生と通院の時間を相談しながら決めていくことになります。
抗がん剤治療では、薬を体に入れる期間と、その後にしっかり休む期間とをひとまとまりにした「クール」という考え方で治療が進みます。目安としては3週間前後を1クールとし、これを繰り返しながら、がんの状態がどう変化しているかを見極めていきます。休む期間は、薬の影響で疲れた体をいたわり、次に備えるための欠かせない時間です。この間には血液の状態を調べる検査が行われ、その結果をもとに、次のクールへ進んでよいかどうかを担当医が見極めます。回復の具合によっては、薬の量を減らしたり、休む期間を長めにとったりといった調整が入ることもあります。順調に腫瘍が小さくなっていても、治療を重ねるうちに薬が効きにくくなったり、がんが再び顔を出したりすることがあり、そうした場合には別の薬に切り替える「二次治療」が検討されます。
通院のたびに、「次のクールまでどのくらい間隔をあけますか」と確認しておくと、生活の見通しが立てやすくなります。
入院で受ける治療と、通院で受ける治療の違い
同じ薬を使う治療でも、病院に泊まって受ける方法と、日帰りで通う方法とがあります。ご自身にはどちらが合いそうか、判断材料を整理してみましょう。
【通院と上手に付き合うための準備】
- 緊急連絡先をすぐ見える場所に控える
体調が急変しやすい夜間や休日でも、迷わず連絡できるようにしておくと安心です。 - 付き添いや送り迎えを前もって家族と話し合う
点滴の後は体がだるくなることもあるため、無理のない移動手段を考えておきましょう。 - 調子の良い日と悪い日の傾向をつかんでおく
自分なりのパターンが見えると、外出や仕事の予定が立てやすくなります。
入院でも通院でも、「今のご自身に合ったかたちで治療が続けられている」という感覚が、日々の安心につながります。「私の場合、通院での治療は可能でしょうか」と聞いてみるとよいでしょう。通院中に体調が急変したときは、我慢せず、教えられた連絡先へすぐに連絡してください。
5.気になる治療費と、負担を軽くする公的な制度
治療を続けるうえで、費用のことが心配だという声もよく聞かれます。ここではおおよその費用感と、負担を減らせる制度を確認していきましょう。
抗がん剤治療の費用は、どのくらいを見込んでおけばいい?
治療がいつまで続くか分からないなかで、費用の見通しまで立てるのは難しいものです。
抗がん剤治療には公的な医療保険が適用されるため、窓口で実際に支払う金額は、治療費全体のおよそ1〜3割にとどまります(年齢や所得水準によって割合は変わります)。一方で、使う薬の種類によって治療費の総額は大きく異なり、なかでも分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、細胞障害性抗がん剤よりも費用がかさみやすいとされています。1回ごとの負担は限られていても、治療がいくつものクールにわたって続くことで、トータルの出費は積み上がっていきます。入院と通院でも費用の中身は異なり、入院を伴う場合には食事代や差額ベッド代といった項目が加わることもあります。実際にどれくらいかかるかは、選ばれる薬や通院のペースによって変わってくるため、病院の会計窓口や医療ソーシャルワーカーに直接尋ねるのが確実です。
治療方針が決まった段階で、「毎月どのくらいの支払いになりそうですか」と会計窓口に相談しておくと、心づもりがしやすくなります。
知っておきたい、費用負担を抑える公的な仕組み
費用の負担を軽くしてくれる公的な仕組みがあることも、ぜひ知っておいていただきたい点です。
【 公的な制度を上手に使うためのポイント】
- 限度額適用認定証を治療開始前に用意する
あらかじめ申請しておくことで、窓口での支払い自体を上限内に抑えられます。 - 医療費の領収書はひとまとめに保管する
確定申告の医療費控除に使えるため、あとから家計の負担を取り戻せることがあります。 - がん相談支援センターがどこにあるか調べておく
多くの病院に設置されており、通院のついでに立ち寄って話を聞いてもらうこともできます。
こうした制度を知り、頼っていくことは、決して特別なことでも遠慮すべきことでもありません。治療にしっかり向き合っていくための、大切な備えのひとつです。「自分の場合はどの制度が使えますか」と、医療ソーシャルワーカーや相談窓口に率直に尋ねてみてください。手続きの進め方に迷ったときも、遠慮せず病院の窓口を頼っていただければと思います。
6.まとめ
肺がんの抗がん剤治療とひとくちに言っても、細胞障害性抗がん剤・分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬では、効果の出方も副作用の現れ方もまったく異なります。同じ「抗がん剤治療」という言葉でくくられていても、薬の種類によって向き合い方はこれほど変わってくるのです。どの薬が選ばれているのか、今どの段階にいるのかを知っておくだけで、担当医の説明を聞くときの心構えが変わってくるはずです。副作用の波にも、治療のリズムにも、費用のことにも、それぞれ向き合い方や頼れる制度があります。わからないことが出てきたときは、そのつど遠慮せず担当医や薬剤師、相談窓口の力を借りながら、ご自身のペースで治療と歩んでいっていただければと思います。今日知った内容が、次の診察に向かう気持ちを少し軽くする助けになれば幸いです。

快適医療ネットワーク理事長
監修
医学博士 上羽 毅
金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広し知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。









