- 2025.11.12 2026.10.13
- 膵臓がん
膵臓がんの抗がん剤治療とは?主な薬の種類と副作用、治療の流れ
膵臓がんの治療として抗がん剤を勧められると、「手術はもうできないということ?」「副作用で体が弱ってしまわないか」と、いくつもの疑問が一度に浮かぶかもしれません。膵臓がんは見つかった時点で進行していることが多く、抗がん剤治療が治療の中心になる場面が少なくないがんです。
ただ、抗がん剤の役割は進行を抑えることだけではありません。手術の前後に使って再発の可能性を下げたり、腫瘍を小さくして手術を目指したりと、目的は状態によって大きく変わります。
近年は薬の選択肢も増え、体力や生活に合わせて組み合わせを選べるようになってきました。遺伝子の検査結果によっては、分子標的薬などが使える場合もあります。
主治医から説明を受けるとき、その治療が「再発を防ぐため」なのか「進行を抑えるため」なのかを知っていれば、質問や希望も伝えやすくなります。ご自身やご家族の治療を思い浮かべながら、必要なところから読み進めてみてください。
目次
1.膵臓がんと抗がん剤治療の基礎知識
まずは膵臓がんの特徴を押さえておきましょう。病気の性質を知ると、抗がん剤が重視される理由が見えてきます。
膵臓がんの概要と症状
膵臓がんは、膵臓にできる悪性の腫瘍です。多くは、膵液の通り道である膵管の細胞から発生します。
膵臓は胃の裏側にあり、十二指腸に接する頭部から頸部・体部・尾部へと続く細長い臓器です。消化を助ける膵液と、血糖を調整するインスリンを作る機能を担っています。
早期には症状がほとんど出ないのが特徴です。進行すると、みぞおちや背中の痛み、皮膚や白目が黄色くなる黄疸、食欲不振、体重減少などが現れます。糖尿病が急に発症・悪化することもあります。
診断では、造影CTやMRI、超音波内視鏡などでがんの位置や広がりを確認し、細胞や組織を採取して確定させます。
治療方針を考えるうえでは、ステージに加えて、手術でがんを取り切れるかどうかの見極めも重要です。膵臓がんでは「切除可能」「切除可能境界」「切除不能」の3つに分けて考えられ、この区分によって抗がん剤の使い方も変わってきます。
抗がん剤治療の基本的な役割
膵臓がんの抗がん剤治療は、手術と組み合わせて再発を防ぐ使い方と、手術ができない場合に進行を抑える使い方の2つに大きく分かれます。
「切除可能」の場合は、手術の前にゲムシタビンとS-1を併用し、手術後にS-1を内服する術後補助化学療法を行うのが標準的な流れです。体に残っているかもしれない小さながん細胞をたたき、再発のリスクを下げます。
「切除可能境界」は、取り切れるかの判断が難しい状態です。ゲムシタビン+ナブパクリタキセルやFOLFIRINOXなどの抗がん剤、または化学放射線療法で、がんを小さくしてから外科手術を目指します。
がんが周囲の重要な血管に浸潤した「局所進行切除不能」の場合は、抗がん剤単独か、放射線療法を組み合わせた治療が選ばれます。
遠隔転移がある場合や再発した場合は、全身に作用する抗がん剤が治療の中心です。進行を抑えて症状を和らげ、生活の質を保ちながら過ごせる期間を延ばすことを目指します。
ここまで、膵臓がんの特徴と抗がん剤の役割を見てきました。実際に膵臓がんの治療と向き合ってきた方の経過を、ここでご紹介しています。
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2.膵臓がんに対する主な抗がん剤
ここからは代表的な抗がん剤と、その組み合わせを見ていきます。
フォルフィリノックス(FOLFIRINOX)
FOLFIRINOX療法は4種類の薬を組み合わせる治療で、切除不能な膵臓がんの一次治療として推奨されている方法の一つです。
使用する薬剤は、フルオロウラシル(5-FU)、その効果を高めるレボホリナート、イリノテカン、オキサリプラチンです。フルオロウラシルは大腸がんや胃がん、食道がんでも使われてきた薬です。
2週間ごとに繰り返す治療で、1回の投与に2日ほどかかります。フルオロウラシルは約46時間かけて持続的に点滴します。胸の皮膚の下に「ポート」という小さな器具を埋め込むことで、自宅でも点滴を続けられます。
効果が高い一方、感染症、下痢、手足のしびれ、吐き気などの副作用が出やすい治療です。そのため体力が十分にあり、全身状態が良好な方が対象になります。副作用を抑えるため、薬の量を調整した方法も広く行われています。
ゲムシタビンとその併用療法
ゲムシタビンは、従来から膵臓がん治療の土台となってきた点滴の抗がん剤です。がん細胞がDNAを作る働きを妨げ、増殖を抑えます。
単独の場合は、週1回30分ほどの点滴を3週続けて4週目を休む、4週1コースの治療です。副作用は比較的少なく、高齢の方や体力がやや低下した方でも受けやすいと言えます。
ほかの薬との組み合わせは、次のように使い分けられています。
| 治療法 | 主な使われ方 |
|---|---|
| ゲムシタビン+ナブパクリタキセル | 切除不能な膵臓がんの一次治療 |
| ゲムシタビン+S-1 | 切除可能な膵臓がんの術前治療 |
| ゲムシタビン単独 | 体力に不安がある場合の一次治療など |
術前のゲムシタビン+S-1療法は、点滴と内服を組み合わせた3週1コースを2回行うのが一般的です。
S-1は飲み薬の抗がん剤で、手術後の再発を防ぐ治療の中心です。切除不能な場合に単独で用いることもあります。
ナブパクリタキセルの効果
ナブパクリタキセルは、ゲムシタビンと組み合わせて使う点滴の抗がん剤です。
パクリタキセルという薬を、アルブミンというタンパク質の粒子に結びつけたもので、細胞の分裂を止めてがんの増殖を抑えます。乳がんや胃がん、肺がんでも使われる薬です。
ゲムシタビン単独に比べ、併用で生存期間が延びることが臨床試験で示されました。こうした成績から、FOLFIRINOX療法と並ぶ一次治療の選択肢になっています。
主な副作用は、手足のしびれ、脱毛、白血球の減少などです。しびれは治療を重ねるほど強くなりやすいため、早めに伝えれば、減量や休薬で調整できます。
3.抗がん剤治療の流れとプロセス
治療の進み方を知っておくと、通院や生活の段取りを立てやすくなります。治療前・治療中・治療後の順に見ていきましょう。
治療前の準備と確認
治療を始める前には、安全に抗がん剤を受けられる状態かどうか、体の状態を詳しく確認します。
血液検査で肝臓や腎臓の働き、白血球や血小板の数を確認し、画像検査でがんの広がりを調べます。日常生活をどの程度自分で送れるかも、薬を選ぶ大切な判断材料です。
黄疸がある場合は、胆道にステントという管を入れて胆汁の流れを良くしてから治療を始めることがあります。遺伝子の異常を調べる検査を行う場合もあります。
【治療が始まる前に確認しておきたいこと】
- 治療の目的を聞いておく
再発を防ぐ治療か、進行を抑える治療かで、期間や考え方が変わります。 - スケジュールを確認する
点滴の日や休薬期間が分かると、仕事や家庭の予定を組みやすくなります。 - 連絡が必要な症状を教えてもらう
発熱や激しい下痢など、すぐ病院へ連絡すべき目安と連絡先を控えておきましょう。
聞きたいことはメモにまとめ、診察に持っていくと確認しやすくなります。
4.治療中の効果と副作用の確かめ方
治療中は、副作用と効果の両方を定期的に確認しながら進めていきます。
毎回の投与前には採血と診察を行い、副作用が強ければ薬の量を減らしたり、投与を延期したりします。
効果の判定は、2〜3か月ごとを目安に行うCT検査が中心です。がんの大きさに加え、CA19-9などの腫瘍マーカーの推移や症状も合わせて判断します。
効果が持続している間は、同じ治療を続けます。がんが大きくなった場合や、副作用で続けるのが難しい場合は、別の薬に切り替える二次治療を検討します。一次治療でゲムシタビンを含む治療を行っていた場合は、ナノリポソーム型イリノテカンとフルオロウラシルの併用が候補の一つです。
検査結果の説明では、治療を続けるのか変えるのか、その理由もあわせて聞いておきましょう。
治療後の定期的な通院
抗がん剤治療が一区切りついたあとも、定期的な通院で体の状態を見守っていきます。
手術と術後補助化学療法を終えた方は、その後も数か月ごとの診察やCT検査、腫瘍マーカーで再発がないかを確認します。再発は手術後数年以内に見つかることが多いため、受診を続けることが大切です。
膵臓を切除すると、消化酵素やインスリンが不足し、下痢や体重減少、糖尿病が起こることがあります。消化酵素の薬や血糖の管理など、手術に伴う変化へのケアも大事な役割です。
切除不能な場合は、治療を休む期間も経過を観察します。痛みなどを和らげる緩和ケアは、抗がん剤治療と並行して受けられます。
5.抗がん剤治療の副作用とその対策
抗がん剤は、髪の毛や血液を作る細胞など、増殖が盛んな正常な細胞にも影響します。出やすい副作用を知っておくと、早めの対処につなげられます。
一般的な副作用の種類
起こりやすい副作用は、薬の種類によって異なります。
| 治療法 | 起こりやすい主な副作用 |
|---|---|
| FOLFIRINOX | 白血球の減少、下痢、手足のしびれ、吐き気・嘔吐、倦怠感 |
| ゲムシタビン+ナブパクリタキセル | 白血球や血小板の減少、しびれ、脱毛、発熱 |
| ゲムシタビン単独 | 白血球や血小板の減少、発熱、まれに間質性肺炎 |
| S-1 | 食欲不振、下痢、口内炎、皮膚の色素沈着 |
複数の治療で共通するのが、骨髄の働きが落ちる「骨髄抑制」です。白血球が減ると感染症にかかりやすくなり、血小板が減るとあざや出血が起こりやすくなります。
オキサリプラチンによる神経障害のしびれは、冷たいものに触れると強く出るのが特徴です。ゲムシタビンの治療中に咳や息切れが続くときは、肺の炎症の可能性があるため、すぐに医師へ伝えましょう。
副作用の出方には個人差があり、表の症状がすべて起こるわけではありません。
副作用への具体的な対処法
副作用の多くは、予防の薬や日常の工夫で軽減できます。つらさを我慢せず、早めに医療チームへ伝えることが第一歩です。
【 副作用とうまく付き合うためにできること】
- 吐き気止めは指示どおりに使う
吐き気は予防的に薬を使うと抑えやすくなります。食事は冷ましたものを少量ずつ試しましょう。 - 感染症を防ぐ習慣をつける
手洗いとうがいを心がけ、38度前後の発熱があったら自己判断せずに病院へ連絡します。 - しびれは冷えから守る
オキサリプラチンの治療中は、手袋をして冷たい物に触れないようにすると安心です。 - 下痢のときは水分を補う
下痢止めを飲むタイミングを事前に確認し、こまめな水分補給で脱水を防ぎましょう。
脱毛が起こる治療では、ウィッグや帽子を早めに準備しておきましょう。
6.膵臓がんの治療における新たなアプローチ
がん細胞の遺伝子の特徴に合わせた治療も使われるようになっています。対象は限られますが、遺伝子検査を受ける意味が見えてきます。
分子標的薬の可能性
分子標的薬は、がん細胞が持つ特定の遺伝子やタンパク質を狙って増殖を抑える薬です。遺伝子検査で、その薬が効く変異を持っていると分かった方が対象です。
代表的なのが、BRCA遺伝子の変異が陽性の場合に使うオラパリブという飲み薬です。この変異は膵臓がんの約5%に見られます。プラチナ系の抗がん剤を含む治療で進行が抑えられているとき、その状態を維持する目的で使われます。
NTRK融合遺伝子やBRAF遺伝子の変異など、まれな異常にもそれぞれ有効な薬があります。いずれも膵臓がん全体の数%以下ですが、該当すれば選択肢が広がります。
膵臓がんの多くで見られるKRAS遺伝子の変異を狙った薬も、現在研究と開発が進められています。遺伝子検査を受ける時期は、主治医に確認してみましょう。
免疫療法の進展
免疫療法は、自分の免疫の力でがんを攻撃する治療です。膵臓がんで効果が確認されているのは、免疫チェックポイント阻害薬を使う方法に限られます。
対象は、遺伝子検査で「MSI-High」や「TMB-High」と判定された場合です。どちらも遺伝子の傷が多いタイプで、免疫が働きやすいと考えられています。いずれも膵臓がん全体の1〜2%程度以下と、ごく一部です。
それ以外の免疫療法で、膵臓がんへの効果が科学的に確かめられたものはまだありません。新しい治療に関心があるときは、臨床試験への参加について主治医に相談する方法もあります。
7.膵臓がん患者の生活とサポート
外来で続けることの多い抗がん剤治療では、日々の過ごし方や周囲の支えも大切です。
治療中の生活の工夫
治療中は食欲の低下や消化不良から体重が減りやすくなるため、体力の維持を意識することが大切です。
膵臓の働きが落ちると脂肪を消化しにくくなり、下痢や脂っぽい便が出ることがあります。食べているのに体重が減るときは、消化酵素の薬で改善が期待できる場合があります。
【 体力を保つための毎日の工夫】
- 少量ずつ回数を分けて食べる
1日3食にこだわらず、食べられるときに少しずつ口にしましょう。 - 体重を定期的に測る
週に1回ほど記録すると、体重の変化を主治医に具体的に伝えられます。 - 体調の良い日は体を動かす
短い散歩やストレッチを続けると、筋力の衰えを防ぎ、気持ちの切り替えにもつながります。 - 栄養士に相談する
栄養補助食品の使い方など、症状に合わせた食事の工夫を一緒に考えてもらえます。
仕事を続ける方は、通院日や体調の波を職場と共有しておくと勤務の調整を相談しやすくなります。
家族や友人のサポートの重要性
治療が長くなることも多いため、ご家族や友人の手助けは大きな支えになります。
【 ご家族や身近な人ができる手助け】
- 診察に一緒に行く
説明を二人で聞いてメモを取ると、聞き漏らしを防げます。 - 体調の変化を記録する
食事の量や発熱など、本人が見落としがちな変化は診察で役立つ情報です。 - 家事や送迎を分担する
治療日の前後は疲れが出やすいため、具体的な手伝いが負担を減らします。
支える側の疲れも見過ごせません。病院のがん相談支援センターでは、ご家族からの相談も受け付けており、地域の支援制度などの情報も得られます。
8.膵臓がん治療に関するよくある質問
よく聞かれる疑問を取り上げます。
Q.抗がん剤治療の期間はどのくらい?
A.治療の期間は、目的によって大きく異なります。
手術前のゲムシタビン+S-1療法は2コースで約6週間、手術後のS-1による術後補助化学療法は6か月間が一般的です。
切除不能な場合や再発した場合は、期間があらかじめ決まっていません。効果が続き、副作用が許容できる範囲である限り、治療を続けていきます。
1コースの長さは、FOLFIRINOX療法が2週間、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法が4週間など、治療方法ごとに異なります。多くは保険診療として外来で受けられ、日常生活を送りながら治療を続ける方も少なくありません。
Q.抗がん剤治療での完治は可能か?
A.抗がん剤治療だけで膵臓がんを完治させることは、現状では難しいと考えられています。
根治が期待できるのは、手術でがんを取り切れた場合です。手術の前後に行う抗がん剤治療は、その可能性を高めるための大切な治療と位置づけられています。
一方で、手術ができないと判断された局所進行がんでも、抗がん剤や放射線治療でがんが縮小し、手術が可能になるケースがあります。こうした手術は「コンバージョン手術」と呼ばれ、実施できる方は限られますが、治療の選択肢の一つです。
切除不能の場合の治療は、進行を抑えながら良い状態で過ごせる時間を延ばすことが目標です。治療の方針は、ご自身の希望も考慮しながら主治医と話し合って決めていきましょう。
9.まとめ
膵臓がんの抗がん剤治療は、手術の前後で再発のリスクを下げる役割と、手術ができない場合に進行を抑える役割の両方を担っています。薬の組み合わせは状態や体力に合わせて選ばれ、遺伝子の特徴に応じた薬が使えることもあります。
副作用には予防の薬や日々の工夫で備え、効果は定期的な検査で確かめながら、必要に応じて次の治療へ切り替えていきます。
膵臓がんは手ごわい病気ですが、治療の選択肢は少しずつ確実に増えてきました。一つひとつの治療の目的を確かめながら、ご自身らしい毎日を大切にできる道を、主治医やご家族と一緒にゆっくり探していきましょう。

快適医療ネットワーク理事長
監修
医学博士 上羽 毅
金沢医科大学卒業後、京都府立医科大学で研究医として中枢神経薬理学と消化器内科学を研究。特に消化器内科学では消化器系癌の早期発見に最も重要な内視鏡を用いた研究(臨床)を専攻。その後、済生会京都府病院の内科医長を経て、1995年に医院を開業。
統合医療に関する幅広い知識と経験を活かして、がんと闘う皆様のお手伝いが出来ればと、当法人で「がん患者様の電話相談」を行っております。












